新技術の法的保護

 

新技術の法的保護

新技術の法的保護
 
発明のドキュメンテーション
(1)研究ノート  
先端技術分野では,別の発明者が同一または類似の発明をほぼ同時に完成し, 特許出願することが少なからずある。  この場合,先発明主義を採用する米国では,発明の優先(priority)を決定す る抵触審査(インターフェアレンス;interference)の手続が行われる。  このインターフェアレンスの手続では,発明者は,発明のアイディアを着想し た日付とそれを実施した日付を証明する必要にせまられる。そのために,研究者 は,研究段階からこれらの日付を証明できるように研究ノートに発明を記録する ことが必須の重要課題となる。  米国の大学で推奨されている発明の記録のためのガイドラインとして,次のよ うな例があげられる。
・ 製本された研究ノートを使う(日記帳の様式が必要とされる)。
・ 記入は1日ベースで行う。
・ 発明の概念,実験データ,図面,観察記録をノートに記録する。各記録に日 付,タイトル,続葉ページを記入する。 ・ インクで記入する。
・ どんなことがあっても記載を消してはいけない。訂正/削除は線を引いて示 し,訂正事項を記入する。各ページのブランク(空白)は線で明示する。
・ 記入できない材料は貼り付けて説明する。
・ すべての記録には,その時点で,署名,日付,証人による署名(少なくとも 2つ)を付する必要がある。
・ 証人は記録した内容を読み,それを理解でき,しかも,その開発に少しも関 係していない者である必要がある。
・ 特に重要または通常でない発見または観察がなされたときは,さらに別の証 人の証明を付するべきである。各発明者を各々の証人とすることはできない。  研究室の長は,研究ノートに記録する時間を各発明者に与える必要がある。
・ この時間は,注意深く,しっかりと観察する。記録が完了したら直ちに証人 となり得る者を呼び寄せる。
・ ノートがコンピュータで管理されているときは,毎日の終りに適正な記録を コンピューター・システムに入力する。
・ 毎日の記録はプリント・アウトし,日付,署名,証人の署名を,研究ノート の場合と同様に付する必要がある。
・ 最終のプリント・アウトされた書類はノートに貼付する。
・ 記録の保管,モニターのための安全策を定める。
・ 特許出願または特許に関する研究データは,保存しておく。 (これらは,Technology Administration and Development/North Carolina State University の資料による)  
このように,米国の大学で推奨されている研究ノートの取扱い基準は,一般的 に,かなり詳細かつ具体的であり,しかも,証人による署名を要するなど,時間 と経費が求められる内容となっている。  日本では,このような米国方式をそのまま採用することは現実的ではないと思 われるが,少なくともその基本的ポリシーはかなり参考になる。基礎研究,学術 的研究を主体とする大学,政府研究機関においては,今後,米国出願の数が増加 すると見込まれるので,日本においても,発明のドキュメンテーション( documentation )は重要課題になるとみられる。
(2)共同研究のためのドキュメンテーション  
米国における新技術の研究/開発体制はすでに共同研究を主体とする方向に大 きくシフトしていることから,今後,日本においても産学官が連携した共同研究 /開発が活発化することは確実とみられる。  共同研究の場合,複数の研究者(発明者)による研究成果(発明)を複数のク レームで特許出願することになるので,発明者-発明-クレームの関係が重要に なる。米国では,発明者が特許出願人になるため,発明者が複数の共同出願では ,特許化された後に,新たに先行技術文献が見出されたことの他に,発明者の名 前が間違っていること,発明者-発明-クレームの関係が適正でないこと,を理 由に特許の無効性を争うことが多々ありうる。そのために,共同研究の場合は, 特に,その発明者がどの研究成果に貢献したか,発明の着想/実施の正確な日付 ,を記録することが重要になる。  そのような研究ノートがない場合,あるいは研究ノートが個人所有になってい る場合には,研究ノートを客観的証拠として利用できないので,発明の完成日は ,発明のディスクロージャーが行われたとき(発明のディスクロージャーの事実 が証明された場合),あるいは,特許出願日が発明をした日付となる可能性があ る。  このような研究ノートは,日本においても,米国出願の可能性を考えると,上 記ガイドラインに適合するレベルの実施方式で整備することが求められる。特に ,IT,BT関連を中心とした先端技術分野では,不可欠である。また,米国と 同様に,今後,日本でも共同研究方式が活発化するとみられることから,発明者 と研究成果の関係,発明者と発明-クレームの関係をより厳密に管理することが 重要になる。それらをあいまいにしておくと権利化の段階,あるいはライセンス 段階で権利の持分(ロイヤリティの配分)の問題が表面化し,トラブルに発展す ることになるので事前の対応が求められる。  また,研究の途中から共同研究に参画する場合は,それまでの研究成果を記録 した研究ノート(またはその写し)を提出(または開示)することが重要である 。それにより,発明者と(それまでの)研究成果/日付の関係を共同研究のスタ ート段階から担保しておくことができる。この場合,その時点でそれまでの記録 を開示することが望ましいが,内容によっては,後日,必要となった段階で開封 することを条件に封印(シール)して提出してもよい。  研究ノートがあれば,このような手続きは容易であり,しかも,信頼性の高い 証拠方法となりうるので,安心して共同研究に参画することができる。  日本においても,特許を受ける権利を正式な譲渡手続により発明者から適法に 承継していない者が特許出願をしたときは出願拒絶の理由または特許無効の理由 となることはいうまでもない。
<<須藤国際特許事務所>> 〒130-0013 東京都墨田区錦糸3-2-1 アルカイースト5階 TEL:03-5610-3011 FAX:03-5610-3021