ビジネス交渉

 

ビジネス交渉

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1)スタンドスティル契約  
研究成果(発明)を商品化するために,その商品化の可能性を評価する必要が生じる。この場合,研究成果をライセンスする前に,ライセンシー予定者が商品化の可能性を評価する研究を求めることがある。このとき,一定の期間を限って,評価の研究を進めるためのスタンドスティル契約(Standstill Agreement)をする必要が生じる。通常,ライセンシー予定者は,商品化の評価の研究を所定の期間内に実施して報告すること,ライセンサーは,その間に他者にライセンス交渉しないこと,が義務づけられる。  しかし,この研究成果の通常の商品ではない特別の商品を開発する場合は,ライセンサーが他者に通常の商品のライセンス交渉を進めることは制限されないのが通常である。  このスタンドスティル契約の特徴として,AUTMのプログラムでは以下の点をあげている。
* ライセンシー予定者は一定の期間にその研究成果(発明)を使って,商品化の評価の研究を実施する。
* ライセンサーは,必要な技術情報を提供する。
* スタンドスティル期間は数か月(例えば,3か月)であり,適宜,延期できるが,通常,最大で1年である。
* この研究成果の通常の商品の開発を目的とする場合は,ライセンサーは,この期間内の他者へのライセンス交渉が制限される。
* 通常,この段階では対価の支払の交渉は行わない。しかし,ライセンシー予定者が多い場合,ライセンシー予定者が強く商品化を希望している場合,スタンドスティル期間を延長した場合などは,名目の料金を課すことがある。
* ライセンシー予定者は,研究レポート(研究プランおよび開発レポート)を提出する義務を負う。スタンドスティル期間を延長すると名目の料金が課されるので早期に研究を終了する必要がある。
* ライセンサーは,ライセンシー予定者が提出した研究レポートを検討し,評価する。
* ライセンシー予定者が技術導入を希望する場合は,本格的なライセンス契約の交渉に入る。そうでない場合は,スタンドスティル期間が経過した段階で,交渉は終了する。
* この研究の間に,この発明から派生した発明の権利はライセンサーに帰属する。研究レポートの内容は,当然,ケースに応じて異なるが,通常,スタンドスティル契約の段階で,研究プラン(特に,研究すべき項目,研究期間を特定したもの)を提出し,研究が完了した段階で,開発レポート(特に,研究の結果,研究期間,当初プランの変更点など)を提出する。 (これらはWisconsin Alumni Research Foundation(WARF)のStandstill Agreementの例による)  
このスタンドスティル期間に,研究者(発明者)は,研究のアドバイス,技術指導,情報の提供,サンプルの提供などを求められることがある。また,ライセンシー予定者が提出した研究レポートを検討し,評価することが求められる。  したがって,このスタンドスティル契約では,研究者(発明者)のサポートがかなり重要になる。しかし,この段階をクリアーすれば,次は,技術導入の本格的なライセンス交渉になるので,主に,ライセンス担当者の仕事になる。
(2)秘密情報開示契約  スタンドスティル契約と同時に,あるいは,研究成果に関する情報をライセンシー予定者に開示する場合に,秘密情報開示契約CDA(Confidential Disclosure Agreement )をする必要がある。  このCDAの特徴として,スタンフォード大学のOTLでは以下のような点をあげている。
* ライセンサーは研究成果(発明)に関する情報を原則として文書で開示する。口頭で開示した場合,材料を提供した場合は,書面で要約する。
* ライセンシー予定者は開示された情報をその発明の利用可能性を評価する目的のために使用する。 ・ 研究者(発明者)は,ライセンシー予定者に開示する情報を選択する。
* ライセンシー予定者が開示された情報を上記評価の目的を越えて使用することを希望するときは,別途契約する必要がある。
* 評価の期間が経過したとき,またはライセンシー予定者がもはや評価を続ける必要がなくなったとき,あるいは,満足できる両者の合意が得られないとき,ライセンシー予定者は,開示された情報および提供された材料をすべて返却し,それらのコピーの1部を記録として契約期間中保管する。
* ライセンシー予定者は,開示された情報を評価に関与する特定のメンバーのみに開示できる。  しかし,以下の情報は秘密情報とされない。
* この情報開示のとき,一般に入手可能な情報。 ・ 開示された情報のうち,途中で,ライセンシー予定者の責によらずに公知に至った情報。
* 開示された情報のうち,その後,第三者が独立に公表した情報。
* ライセンシー予定者が独自に開発した情報。 (これらはStanford University のCDA の例による)  
このCDA段階で,研究者は,ライセンシー予定者が評価の目的で使用するための情報を選択することが求められる。  具体的には,発明を記述した書面,図面,写真,見本,標品,材料などが例示される。評価の方法,必要とされる期間は,研究者のアドバイスによって決定すべき事項である。また,この評価期間中に,研究者が外部に公表することが制限される可能性がある。
(3)オプション契約
スタンドスティル契約よりも,さらに本格的なライセンス契約に近い段階のものとして,オプション契約(Option Agreement)をすることがある。このオプション契約は,ライセンシー予定者が開示された技術の商品化の評価を行うことを目的としている点で基本的にはスタンドスティル契約と同じであるが,オプション契約では,具体的な商品(製品または方法)の開発が求められる。  通常,評価の期間はより長く,また,料金はより高く設定される。オプション契約の条項は,ライセンス契約の条項に近いものになるので,この段階では,具体的な条項の交渉を含めて,ライセンス担当者の仕事が多くなる。  ライセンシー予定者が開示された技術に強い興味をもっている場合は,いきなりオプション契約を求めることが多い。
(4)ライセンス契約  
本格的なライセンス契約(License Agreement )の段階では,専ら,上級のライセンス担当者が関与することになる。これ以降は,通常の技術移転プログラムで実務的に処理することになるので,また,過度に情報を開示しないためにも,この段階で研究者が直接交渉に参加しない方がよい。  したがって,研究者は,後日の技術指導などを除くと,技術移転プログラムへの直接的な関与はほぼこの段階で終了する。             
ライセンス段階の主な契約    
秘密情報開示契約CDA(Confidential Disclosure Agreement )    
スタンドスティル契約(Standstill Agreement)    
オプション契約(Option Agreement)    
独占的ライセンス契約(Exclusive License Agreement )    
非独占的ライセンス契約(Nonexclusive License Agreement)
(5)技術ライセンシング  
日本では技術移転機関をTLOと称しているが,このTLは言うまでもなくTechnology Licensingであり,このことからも技術移転における手続の本質は,ライセンシング(特許ライセンス)であることがわかる。  技術移転の手続は,特許権者(ライセンサー)が自己の保有する特許発明を独占的または非独占的に実施する権利を契約により実施者(ライセンシー)に許諾する手続を意味する。  したがって,特許権がなければ,当然,ライセンスもなし得ず,技術移転のプログラムはもとより成立しないことになる。そうなれば,事業者は安心して事業化に参画できないし,投資家は安心してハイリスクな投資をすることは不可能である。  
このように,技術移転の本質は特許権者(ライセンサー)が自己の保有する特許発明を実施する権利を事業者(ライセンシー)に許諾することであり,技術移転のパテント・ポリシーおよびプログラムは,すべてこの特許ライセンスを前提としたものと考えてよい。単に技術移転(Technology Transfer )といえば,学会発表,刊行物公表なども第三者に技術を(無償で)トランスファーするという意味で技術移転の一方式と考えられる。  
しかし,技術移転プログラムでいうところの技術移転は,あくまでも特許ライセンスによる技術移転であり,大学からの技術移転を促進する仕組みとしての技術移転機関は,むしろ,特許ライセンシング・オフィスと考えた方がよい。  技術移転は,技術そのものに着目すれば技術のトランスファーであるが,技術移転を取扱う当事者,すなわち,研究者,大学(ライセンサー),および事業者(ライセンシー)からみれば,特許ライセンシングであり,技術移転の本質はライセンシングであることを特に重視する必要がある。
 
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